平成28年9月15日

コラム気づきのココロ」 第9回 人材は最大の“資源”  やる気を出させるためのフィードラー理論

 

colum_9-1大分昔の話になりましたが‥‥。

 

上海から延々と続く黄色に染まった菜種畑を見ながら、でこぼこ道を車に揺られて約2時間、着いたところは造成中のゴルフ場でした。日本人向けのコースを目指すとのことで、キャディに日本的なマナー研修をして欲しいと依頼が入り、遥々やってきたのです。

 

対象者は高校を卒業したての中国人女性40数名。彼女達は日本語を勉強している最中とのことでしたが、片言の日本語が話せる程度で、講師の私はといえば、中国語で挨拶するのもままならないほど。そこで、中学生の時、台湾から日本人へ帰化してプロゴルファーを目指している男性に同行してもらい、通訳付きの研修となった次第です。

 

時は3月の中旬、菜種梅雨でシトシトと雨が降り、寒さは日本の春を思わせるそれとは違う極寒の地。長雨で、泥沼と化した造成地を長靴で歩いてやっと研修会場のカート小屋へ。

 

そこは電気もなければ暖房器具もありません。外気を遮断しようとシャッターを下ろしてしまえば、昼にもかかわらず真っ暗で、研修にはなりません。表面がでこぼこでやっと字が書けるような机と3人掛けの椅子は、ようやくお尻が乗るくらいの粗末なもの。そんな悪条件の中、研修は開始されました。

 

全員ジャージ上下の薄着にもかかわらず、「寒い」などという不満の声は一切ありません。一様に目を輝かせ、一字一句を聞き漏らすまいと真剣そのものの受講態度でした。

大きな声を出し、挨拶の練習の実践にも積極的に臨む姿が印象的でした。むしろ、講師の私が感動の連続だったのです。

 

直接会話ができないことに歯痒さを感じながらも、あっという間に3日間が過ぎていき、名残り惜しい気持ちですべてのカリキュラムを終了すると、全員が立ち上がり、代表者の一人がたどたどしい日本語でお礼の言葉を述べてくれました。その声は涙に震え、聞いている他の受講者も一人、二人と泣き出してしまい、最後には私も含め、皆が声を挙げて泣き出す別れとなりました。私が車に乗るまで後を追い、「帰らないで」、「もっと勉強したい」という声に、後ろ髪を惹かれる思いで帰路に着きました。

 

あれから大分日が経ちましたが、いまだに色褪せず、思い出すたびにいつも胸が痛くなります。その後、このゴルフ場の良い評判を聞くにつけ彼女達の頑張っている姿が目に浮かびます。

 

 

さて、日本では、高校・短大・専門学校・大学を卒業して3年未満の未就職者に対して、就職率を上げようと様々な研修を行っています。

colum_9-2皆、研修には真面目に取り組んでくれますが、そんな彼らがなぜ、就職出来ないのでしょうか?

よく聞いて見ると、異口同音、特にやりたいことがないと言うのです。

就職試験はあちこち受けてみるが、すべて不合格になってしまうのです。

何社も願書を出し、面接の日時があちこちの会社から送られてくるので面接に行っても、この会社に本当に就職したいと熱い思いを伝えられない限り、企業からはこの人を採用したいとは思ってもらうことはできないでしょう。

 

中国のキャディ教育時の彼女達の前向きな姿勢を思い出すとき、日本は近い将来あの国に負けてしまうだろうと思いましたが、現実に、このような若者達が社会人として世の中へ出ることになるのです。暗澹たる気持ちになってしまいます。

 

職場で上に立つ人は、こうした現状を踏まえて新人の指導をし、戦力化しなければなりません。何よりも彼らに欠けているのは「やる気」です。やる気のない者が通用するほど甘くはない、という考えもあるでしょうが、心からの積極性を引き出すことは管理職に必須の能力と言えるでしょう。何といっても人材は、最も大切な資源なのです。

 

「やる気」について研究したのが行動科学者のフィードラー博士です。別図に「高業績達成にいたる5つの関所」としてまとめましたが、この理論は産業界はもとより、軍隊、スポーツ、研究分野など、様々なケースで分析され、また、実証されているものです。参考にして下さい。

theory_fiedler

 

 

「やる気」の専門家によりますと、こういった気持ちは4通りに分けられるということです。他人から言われたから仕方なくやるのは「やらされ気」、やる気はあるが職場でのコミュニケーションが上手くとれず、結果が出せない時は「やれん気」‥‥。最悪なのはやる意思がないことで、これを「やらん気」と言うそうです。「やる気」は自主的な言動ですので、自ら動けるように仕向けてあげるのが最大のポイントでしょう。

 

そのためには目標をしっかり持たせることです。頑張れば具現化できるぐらいに設定し、数値化されればより動きやすいでしょう。

 

どんなに技術を磨いても根底に「やる気」というエネルギーを持っていなければ人を感動させることはできません。どこの企業も少数精鋭で高業績を求められる時代、全スタッフを「出来る人」に育てなければなりません。落伍者を他人がカバーする余力は、今の時代にはないはずです。