平成28年5月25日

コラム気づきのココロ」 3回 「自分磨き」の大切さ

 

colum3_1ブッシュ元アメリカ大統領のお父様も大統領でしたが、そのお父様が大統領になりたての頃、その話し方は語尾が消えてとても聞き難く、説得力に欠けていたそうです。アメリカ東部の人はエリートを気取ってわざと語尾を消すと言われるので、南部出身のブッシュ氏は、東部エスタブリッシュメントを気取っていたのかもしれません。

 

ただ、正式な場所でこのような話し方は説得力に欠けるため、3人のイメージコンサルタントを付けて猛特訓、あっという間に説得力ある話法を体得したそうです。

 

ヒトの印象は見た目で55%が決まると前号で書きましたが、その次に印象を左右するのが「声」と「話し方」です。

 

明るくてやる気を感じさせるパワーのある声が出ているか

抑揚(メリハリ)があって心が感じられるか

不要な言葉癖が入って聞き取り難くはないか……

これらで印象の38%を構成します。残り7%が「会話の内容」であることを考えれば、見た目と声、話し方でほとんど決まるわけなのです。

 

日本人は発声、発音、話し方が下手だと指摘されます。大人になっても話し方や声の出し方は教室にでも行かない限り学ぶチャンスはありません。人前で話す時、「私は口下手で」とか、「緊張しておりまして」などと決まって言い訳から入ります。

 

対する欧米人はジョークから入ると言われます。彼らは中学生になると自分の意見をきちんと述べる授業があり、人柄を表すセンス・オブ・ユーモアも磨きます。話し手が緊張感を滲ませると聴衆も心を硬くする、逆に気の聞いたジョークはその場をなごませ、人々の注目を集めます。

 

これらはきちんと学んでいるからできることでしょう。冒頭のブッシュ元大統領がそうだったように、どんな地位でも、何歳になっても、必要とあらば学びに行く。イギリスには良家の子女が社交界デビューする前に「フィニッシングスクール」(最後の学校)へ通うのが通例で、故ダイアナ妃も入学しました。そこでは上品な立居振舞や話し方などを教育しますが、面白いのは「卒倒の仕方」というカリキュラムで、階級社会のイギリスでは上流階級になるほど女性はか弱くなければならないという価値観ゆえに、ちょっとしたことで卒倒する、つまり倒れて男性に支えてもらう、そんな笑い話のような授業を大真面目で行うのです。

 

それはともかく、学ぶことは大切です。歯切れのよい発音を習得するのは難しいことではありません。ひとつには「滑舌」(かつぜつ)で、代表的なものに「ういろう売り」がありますが、簡単な早口言葉を毎朝1~2分、ゆっくり練習するだけで、お客様への挨拶や電話応対が円滑にできるようになるでしょう。

 

「心」のこもってない話し方の例に、国会議員さんの答弁やお偉いさんの祝辞が挙げられます。会合などでは必ずといってよいほど下を向いてメモを読んでおりますが、これはきっと他人が作った文章なのでしょう。一本調子で抑揚がなく、素晴らしい中身だとしても素晴らしくは聞こえず、説得力もありません。

 

colum3_2明るく、パワーのある声で、滑舌よく、心を込めて(メリハリ)、不要な言葉癖を入れず話すことを意識して見ましょう。

 

残るたったの7%が何を話したかの「内容」です。もちろんリピーターや贔屓客など顔馴染に対しては言葉の重みは増しますし、この限りではありませんが、初めてのお客様はあまり話の内容は覚えていないのが実情です。「感じの良い人」とは3つのチャネル(見た目、声と話し方、話しの内容)がぴたっと合っているわけです。

 

「いらっしゃいませ」と歓迎の言葉にもかかわらず、目も合わせず、だらしない格好、暗い声で言われたら、誰も歓迎されたとは思わないでしょう。3つのチャネルがばらばらの場合、人は見た目と声、話し方を優先します。なぜならこれらは五感で瞬間に感じるからです。

話の内容は1度頭に入り、咀嚼して確認するので後回しになる。第一印象はやり直しがきかないため、ほんの一瞬が勝負です。この人の話だったら聞いてみたい、この人と取引してみたいと思わせる努力が必要です。

 

指導者の方は従業員の欠けている要素を見つけ、基本的なことが当たり前に出来るように引き上げて下さい。全員を画一的に教育したら個性が育たないと心配する方もいらっしゃるでしょうが、当たり前のことが当たり前に出来て初めて個性が認められます。「こんにちは」ではなく「コンチワッ」で良い時もあるが、そういったTPOは基本を理解してから使い分けることが大切です。

 

最近の若者が自己中心的なことを憂いたさる幼稚園の園長さんは、園児を1時間正座させ、「子、曰く……」と論語を唱和させています。もちろん理解するのではなく、協調性などの躾が目的ですが、親御さんが「個性を潰すのでは」と心配するのに対し、決してそんなことはないと断言されます。自分を磨く習慣は、教育から生まれると言えるでしょう。

 

ニューヨーク大学の大学院にはパフォーマンス学科があり、世界中のエクゼクティブが数年がかりで自分磨きをしています。自分を出来る人間に見せるスーツを「パワースーツ」と言いますが、それを探してもらったり、視線を何列目に合わせて話し出すとか、その時の表情、身振り手振り、ボイストレーニングや話法にも磨きをかけます。

 

最も自分磨きに成功したのは残念ながら亡くなりましたが、元アメリカ大統領のレーガンさんだと言われます。団体交渉に臨んだ時、私とあなたは対等ですという印象を与えるため茶色のスーツを着たそうです。茶色は安心の色と言われ、これを着ると出世欲を持たないという証になるとか。Yシャツは少し黄色味がかったオフホワイトやアイボリーで柔らかい印象を与え、さらに優しさを演出するため手編みのニットタイ……。マスコミ対応などでは少し威圧感を与えるネイビーブルーのダブルのスーツ、Yシャツは真っ白で襟が高く、糊がバリバリに効いている。ネクタイは高飛車過ぎても良くないので、バーガンディー色(赤ワインの色)と紺色の1.5センチの斜め縞を結んだ。このバーガンディー色で少し優しさを演出したと言われます。

 

テレビ演説はテロップを見ながら視聴者にきちんと視線を合わせる。声はルーズベルト元大統領に似せたとか。ルーズベルトさんは大変な美声の持ち主だったそうです……。

 

このように地位も名誉もある人たちが自分磨きをする欧米。

何歳になっても、どんな地位になっても自分磨きをしたいものです。